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『 少し昔のお話です。あるところに小さな国がありました。
そこには聡明な王様と優しい王妃がいました。国民はいつも幸せに暮らしていました。
ある日のこと、』「ん、その本に興味があるのか?」
シュガは肩をびくっと震わせて、慌てて絵本を閉じた。そして、辺りを見回すと、にこにこと笑顔を浮かべる宿敵の男を発見した。
「クレセント。とっととうせろ」
声変わりの済んでいない幼い声で毒づく。
「うせろなんてひどいな。ちょっと様子を見に来ただけじゃないか」
人族に話しかけられた。それだけで寒気が走る。
早くアイツを倒してみんなのところに戻らないと。
そう決心し、ダークナイトにしては尖っている魔人のような手で男を引っ掻こうとする。
しかし、あっさりと避けられる。何度も試みるが、同じことだった。
「振り方や力の入れ方がなってない。それはお前には合っていない戦い方だ」
「うるせぇ!」
やけになって攻撃するが、結果は無意味だった。
最初会ったときもそうだった。コイツはオレに倒せるような相手じゃない。
「ほら、無理するな。また傷が開いてきたじゃないか。ちょっとおとなしくしていろ」
抵抗しようとするが、クレセントに無理やり抑えられる。
「これでよしっと。前よりはだいぶ楽になっただろ?」
「……そんなことねぇし」
口とは反対に、確かに痛みというものが薄れてきていた。ここに連れてこられる前とは大違いだ。こんな感覚すごく久しぶりな気がする。
「応急処置もろくにされていなかったからな。よく耐えていたよ」
「何をする気だ?」
「え?」
クレセントは不思議そうな顔を浮かべた。
「こんなバルバロスの下っ端助けて、ケガまで治して何を企んでいるんだ?見世物にでもするつもりか!?」
「うーん。私の場合、放っておけなかったって感じだな。あのままだと死んでいたと思うし」
信じられない。
「まぁ。そうだよな。蛮……バルバロスは弱肉強食らしいからな。疑うのも無理はない」
「下手に情けかけるんじゃねぇよ。オレはキサマに負けたんだ。いっそのこと殺してくれ」
そう言われ、クレセントは腰につけていた斧をシュガの首を狙って振りかざした。
だが、寸前のところでふと斧をしまうと、頭を撫でてきた。
「なんだ、結局震えているじゃないか。さっきの発言はどうしたんだ?」
「あう、ひっくひっく。震えてなんていねぇ……」
精一杯強がってみるが、涙が土石流のように出てくるのが止まらなかった。
「怖かっただろ?死ぬっていうのはそういうことだ」
ハンカチでそっと拭ってくれるが、すぐにびしょ濡れになってしまう。
「ぐすっ……で、でも、ボスに言われて沢山殺してきたのに、こんなに怖いことだったなんて」
「そうだな。そう感じるのなら、もうそういうことをやるのも言うのもやめような」
「ちくしょお……」
こみあげてくる嗚咽。
一生懸命に堪えようとするが、我慢ができなかった。
結局、この日は泣きつかれて寝てしまうまで、クレセントはずっといたらしい。
そんな小さいころの記憶の一つ。あれから、少しでも自分は成長できただろうか。
少しでもクレセントを超える見通しはついただろうか。
「わっかんね」
そう呟くと、シュガは部屋の電気を消した。